tshimizu's diary

日々の記録

簿記が面白いという話

この記事はfreee20卒内定者 季節外れのアドベントカレンダー29日目です。

昨日の記事は、ユキさんの長距離きっぷのすすめでした。田舎に住んでいることもあり、自分は普段車移動なので新鮮な気持ちで読みましたが、まさに「Hack Everything★」といった感じの内容でした。

自己紹介

2020年度からエンジニアとして新卒入社予定の清水と申します。 出身は福井県で、現在は大学院で並行プログラミング等の研究に取り組んでいます。大学は石川県の山奥にあって、熊も出るスリル満点の立地です。1

少し過去の話をすると、小学校では卓球(カットマン)、中学では美術(油絵)、高校ではハンドボール(ポスト)、学部時代はヨット(470級クルー)も少しやってました。

この記事では、今年個人的に取った簿記についての話を書きます。試験に向けた勉強の過程で学んだことが、自分としては非常に面白く、またfreeeで働くことに対してもさらにモチベーションが高まりました。会計分野については、社員の方々はもちろん同期のみなさんも自分よりずっと詳しい人が多いとは思いますが、一初学者の視点で感じたことを素直に書いてみたいと思います。

簿記に出会うまで

内定を頂いたあと、エンジニアの方と一緒にいろいろな会議に同席しながら、会社の様子を見せていただく機会がありました。その時同行させていただいた方が、簿記を持っていらっしゃったのをきっかけに興味を持ちました。

そもそも簿記試験は、企業の財政状態を表すバランスシートと、その変化の原因の内訳である損益計算書を作るという目的に向け、ひたすら取引の仕訳、集計をするという内容になっています。(手作業なのでたいてい最後は計算が合いません...)2

当時の自分は、起業や投資の経験はもちろん、個人の生活レベルの範囲でさえお金の知識が怪しい状態で、まして企業の会計などに関する知識は皆無でした。しかし、これから会計ソフトを中心としたプロダクト群に関わる立場になるにあたり、自分が自動化しようとしている対象について知っておきたいという思いから、簿記3級を取ることにしました。

学習過程で考えたこと

勉強の初期段階では、テキストを読みながら過去問題を解いていましたが、何かしっくりこない、本質的に理解できていない感覚がありました。今まで考えもしなかった新しい概念が多数登場し、知識が脳をすり抜けていくような感覚でした。そこでイメージを膨らませるために、いったん簿記試験そのものから離れて、ファイナンスや会計の歴史などに関する書籍3を何冊か読むことにしました。そこには資金を調達する人や貸す人、投資する人がそれぞれどういった視点で考えているか(バランスシートをどう解釈するか)、人類史の中で帳簿が国や地域の健全性にいかに貢献してきたか等について書かれていました。

そういった内容を読んでいった結果、1つ1つの仕訳や最終的に出来上がったバランスシートの裏にあるであろう、人々の営みがイメージできるようになりました。それ以降、問題を解くときにやる作業は以前と同じであっても、頭の中に浮かぶイメージには全く別ものになりました。大げさに言えば、一見味気ない決算書には人々の人生のワンシーンが詰まっているようにも感じられました。

イメージができるようになったのと同時に、会計という仕組みが人間の活動をある側面でうまくモデル化したものであって、またそのログを残す技術であると考えるようになりました。ビジネスのやり取りという目に見えないものが、分類、計算可能になることで可視化され、共通のルールの中で議論できるようになる。すごいですよね。

自分はまだ会社を経営したことはないですが、一消費者として買い物したり、フリマアプリで物を売ったりはします。そんな今まで何気なくやってしまっていた経済活動も、このルールで表現できることを想像してワクワクしました。逆にいうと、「何気なく」やってしまっていたのは、このルール(考え方)を知らなかったためにうまく認識できていなかったとも言えます。

例えば簿記を学ぶ中で印象的だった概念に減価償却があります。これは、建物や備品、車両などの有形固定資産に対して、取得原価、耐用年数、残存価額という要素を定義することで、モノの価値が減っていくことを可視化する方法4です。個人的にはこの方法を知ることによって、今まで「古くなる」といった曖昧な認識だったものが、具体的なイメージと数値を伴った認識になりました。

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自分が初めてプログラミングに触れたときの感動は、自分の思考そのものをモデル化して、形式的に(ただし数学よりもカジュアルに)記述でき、さらに再現性のある実行を何度でもできるということでした。簿記にも似たような面白さを感じ、「とんでもないツールを手に入れてしまった...」という興奮があり、世界を見る目が変わってしまうほどの衝撃を受けました。

簿記の仕組みを知ってからは、日常の買い物のときでさえ「これは費用なのか資産なのか、資産であれば残存価額はいくらなのか。いや、そもそも負債かもしれない。」といった考えが脳内でぐるぐる回り続けるような状態です。ただこれはいわゆる「ハンマーを持つ人にはすべてが釘に見える」ような状況でもあるので、少し落ち着く必要はありそうですが。

最後に

今回は、予備知識のない初心者が簿記を学んだ場合、いったいどんなポイントに心が動かされるのかという視点で文章を書いてみました。これまで考えたこともなかった簿記や会計の分野を、この機会に学べたこと本当に幸運で有意義でしたし、世の中に対する新しい見方を自分に与えてくれました。

その一方で、簿記や会計は人類の叡智が詰まった素晴らしいツールであるものの、それでもやはり事業状況の一側面を抽出したものであり、ビジネスの実態のすべてを人間が認識できる形式に十分にマッピングしたものではないかもなと、素人考えながら思ったりもしました。だからこそ会計を土台にしつつも、freeeのプロダクトでこれまで集められなかったデータやその分析、可視化の方法、また自動化によって生まれた時間を使った人間の洞察により、今まで認識できなかったものが認識できるようになる(できている)のではないかと思います。

来年度からはfreeeのエンジニアとして仕事をスタートしますが、そんな仕組みを技術の面でしっかり支えられるよう成長していきたいです。ここまで読んでいただきありがとうございました!


  1. 金沢大研究棟にクマか ガラス製ドアに人間の手の2倍の足跡、目撃情報も 餌の木の実が凶作(毎日新聞) - Yahoo!ニュース

  2. まだまだプロトタイプですが、仕訳がBSやPLへインタラクティブに反映される簿記用の学習ツールも作ったりしてます。(宣伝)

  3. ざっくり分かるファイナンス~経営センスを磨くための財務~(光文社), 石野 雄一 (著); 数字は見るな! 簿記があなたの会計力をダメにする(日本実業出版社), 田中 靖浩 (著); 帳簿の世界史(文藝春秋), ジェイコブ・ソール (著), 村井 章子 (翻訳)

  4. 必ずしも現実と対応していないこともありますが、基本的なコンセプトとしては時の経過による価値減少の表現方法です。(No.2100 減価償却のあらまし|国税庁